ニューヨークでは、夕方の日の入りの時間が日々遅くなっていく感じがして、だんだんと、この冬も終わりに近づいているのが感じられます。気温自体はまだ低く、外気もとても冷たいのですが、ニューヨークの寒さは、湿度がとても低いせいか、ピリッとしていて、英語ではクリスプ(crisp)なんて呼ぶのですが、気持ちの良い寒さです。
そろそろ、セントラルパークで、ある練習を行うのにもよい季節になってきます。ぬくぬくとヒーターで暖かいお部屋で練習するのもよいですが、春が近くなってくれば、木々の新芽と同じように、私たちも大地の上で、陽の光を浴びながらの練習が気持ち良いです。
ある練習とは、健康保持促進にも役立ち、私にとっては、最近人生が豊かになってきた原因ではないか、と思えるほどの武術なんです。
それは、太極拳です。
今回は、ニューヨークでも、あちこちに道場があり、周りにもずいぶんと愛好者が多い、太極拳についてご紹介します。
陰と陽
まず、太極拳は、英語ではタイチ(Tai-chi)といいます。中国生まれのマーシャルアーツ(武芸 / 武術)の1つで、「シャドウ・ボクシング」とも言われ、今は世界中で愛されており、1、防御の役割、2、健康保持、3、瞑想、などに役立つと言われています。
太極拳のトレードマークともされる、このイエン・アンド・ヤン(陰と陽)のサインは、何事にも二面性があると言うことを表しているのだそうです。
これは、物事を考えるときに、非常に貴重なアイディアだと私は思いました。我々は、問題がある時、ついつい、一つの面を掘り下げて考えて行きがちですが、1つの物事は必ず善悪などの両面を持っているものだ、と言う考えのもとに、物事を見るようにすれば、バランスのとれた思考ができるのではないかと思うのです。
太極拳の基本
トレーニング時のコスチュームは、ゆったりとして軽く柔らかくしなやかなもの、と言われ、綿、麻、衣などの自然素材が良いようです。イメージとしては、チャイニーズのマーシャルアーツ(武術)用コスチュームなどが目に浮かびますが、普通に家でやる時はTシャツとスエットパンツでオッケーです。
それでは、まず太極拳の10の基本をお伝えします。
1、頭をまっすぐにし、
2、胸と背中の位置をしっかり確認する。
3、体中から力を抜く。
4、すべての動きは、体の中心であるお腹を基本に。
5、上半身と下半身の動きの調和を取る。
6、自身の身体全てが1つのユニットとして動く。
7、すべての動きはスムーズに同じ速度で最後まで続けられる。
8、両足に体重をかけるバランスは、いつもどちらかにきちんと体重が乗っているように。
9、体のそれぞれの動きと呼吸のバランスがしっかり取れているように。
10、あなたの精神が、体の動きを導く。
これらを、普段の生活でも普通に気をつけていると、身体がスムーズに動くようになります。実は、ピアノのパフォーマンスも全て、これなんですよね。姿勢が悪くてもダメ、体のどこかに無駄な力が入っていても、ダメなんです。
呼吸法
太極拳では、呼吸の仕方を習います。
あごを引き、舌を上顎に触れさせ口を閉じ、頭のてっぺんからまっすぐ下に降りる1本の線の上に背骨がある感じにして、Dantian(ダンチェン / おへその約5センチ下)に向かって、静かに息を吐きます。
「ダンチェン」は日本語では、「丹田」と言い、「エネルギーの源」などとも言うようです。イメージとして、その空気が背中に抜け脊椎を上ってきて頭のてっぺんまで来て、そしてそれが再びダンチェンを目指し身体の内部を巡って行く感じです。
この呼吸法を自分のものにするだけでも、瞑想に役立ちます。
太極拳のフォーム
それでは、太極拳のフォームをいくつか動画でご覧ください〜。
https://youtu.be/WwkAlifNeXM
さて今日は、さわりだけですが、太極拳のお話をしました。またチャンスがあれば、少し掘り下げていきますね。朝日を浴びながら、芝生の上での太極拳は、なかなか筆舌に尽くしがたい喜びが生まれます。
今週は、ちょっとだけ、そのおすそ分けを。
またセントラルパークでの様子等もお伝えしますね。
ではまた来週。
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。